- Q.1
- 母が病院で手術をした後,死亡しました。医療ミスではないでしょうか。
- A.1
-
■ ミス(過失)とは
ミス(過失)と言えるためには,死亡に至る原因となった疾患・障害及びその悪化などが医療者に予見でき,それを避けるための手段があったのに,そのような手段をとらなかったことが必要です。
医療者にも予見できない病状の悪化ということはありますし,予見できたとしても死亡を避けるためにとれる手段がないという場合もあります。そのような場合には,ミスとはいえません。■ 患者・家族による説明の求め
当事務所としては,まずは,ご相談者(御遺族)が,医療機関に対して,疑問に感じている点について,説明を求めることをお勧めします。これに医療機関が誠意をもって対応し,疑問が払拭され,紛争に至らないというケースはしばしばあります。また病院側がミスを認め,賠償・補償に応じるという場合には,弁護士に依頼しなくても,医療機関と患者・家族側の話し合いで決着がつくケースもあります。
しかし,医療機関との間の信頼関係がすでに壊れているという場合には,説明を求めることは難しいでしょう。また,医療機関がきちんと説明に応じてくれない場合や,説明は一応してくれたけど,御遺族が見てきた診療経過とは異なる事実に基づいて説明をされて納得できない場合などもあると思います。
その場合には,医療問題を専門的に扱っている弁護士事務所に相談下さい。■ 調査の必要性
上記のとおり,医療においては,悪い結果が生じたからといって,直ちに医療機関側にミスがあったということはできません。
そもそも医学的に見てどういう経過をたどって悪い結果が生じたのか(医学的機序)を明らかにすることが必要です。医学的機序をはっきりさせておかなければ,医療機関側から全く別の医学的機序を主張され,法律的な過失,因果関係の主張がぐらついてしまう,というのは,専門弁護士でも経験するところです。
さらに,医療水準に照らして,ミスがあったといえるか,ミスと悪い結果との関係の間に原因・結果の関係(因果関係)があるのか,悪い結果は法律的に見て金銭での損害賠償請求が可能なのか,についても明らかにしなければなりません。 これを明らかにするために「調査」をしなければなりません。
この「調査」段階では,診療記録に基づき診療経過事実を整理し,関連する医学文献,判例を取り寄せ,上に挙げた事項につき仮説を構築していきます。そして,医学文献では詰め切れない事項や,仮説が正しいかを確認する質問事項を作成して,協力医に意見を尋ねます。協力医といっても,患者側で協力してくれる医師がどこかに用意されているというわけではなく,医学文献の検索を通して「この医師の意見を聞きたい」と思った医師に,手紙を書いて意見を伺いたいというお願いをして意見を伺うということが多いです。 仮説が,医師の意見によって医学的に支持されれば良いですが,場合によっては全く否定されて一から仮説を構築し直さなければならないこともあります。
なお,患者側で医療過誤を取り扱う弁護士の態度として,一人の協力医の意見に依拠してしまうのは誤りです。一人の医師が医療過誤とは言えない,合併症であるという意見を述べたとしても,発症を予期でき,避けられた合併症であれば過失を問う余地はあります。逆に,一人の医師が本件は医療過誤だといったとしても,その意見だけに依拠してはいけません。医師によって専門や関心が異なります。その医師の専門からすれば,予見すべきこと,するべきことであるとしても,他の科や一般の診療所ではそのレベルにないということはあります。また,ミスの存在だけで損害賠償請求の成否を決するわけではなく,克服しなければいけない法律問題は他にもあります。専門弁護士を名乗る以上は,弁護士自身がきちんと医学的・法律的知見を集積して,自らの頭で過失を問えないのか等,考えて結論を出すことが重要です。
- Q.2
- 調査をすれば,医療機関の責任を問うことができるようになるということでしょうか。
- A.2
-
医療機関の責任を問うためには調査は必須です。
しかし,調査をしても医療機関の責任を明らかにできないことはあります。
医学的機序を証拠に基づいて明らかにできない,医療機関の医療行為(あるいは,何もしなかったこと)について過失といえない,過失といえそうなことがあった可能性があるが,その証明ができない,因果関係がない・証明できないというような場合です。
私たちは,調査をしても医療機関に対する責任追及は難しいという結論に至るリスクがあることを説明して調査(有料)をお引き受けしています。
- Q.3
- 現在依頼している弁護士に,医療機関に対し8000万円の損害賠償請求訴訟を起こすので,弁護士費用として309万円+消費税を支払って欲しいと言われました。でも,この弁護士さんは,私が収集した医学文献を勉強しているのが精一杯で,医学知識をもっているようにも自分で習得しようとしているようにも見えず不安です。高額な着手金を支払って任せてしまって良いのでしょうか。
- A.3
-
■ 弁護士費用
2004年4月1日より前は弁護士会が報酬基準を定めていました。しかし,これ以降は弁護士費用が自由化され,各弁護士が自由に弁護士費用を定められるようになりました。
もっとも,自由化された後も,以前の弁護士会の報酬基準を妥当なものと判断して,それを自身の報酬規程の基礎としている弁護士は多くいます。当事務所もその一つです。
弁護士費用には,大きく分けて着手金と報酬金(成功報酬)があります。着手金は,弁護士が依頼者の依頼に応じて事件処理に着手するために必要なお金です。その後出た結果が依頼者にとって良くないもであっても返還されません。報酬金は,訴えて得た利益や訴えられた金額と実際に支払うことになった額との差額に基づいて算定するものです。これは,着手金とは別のもので事件終了後に頂きます。
さて,8000万円の損害賠償請求をする裁判を起こす場合の着手金は,当事務所の報酬規程に基づいて計算した場合でも,309万円+消費税となります(弁護士費用ページ 参照)。
なので,この着手金を請求することが直ちに悪いとはいえません。また,医療事件は非常に難しい事件であり,訴訟になれば大変な主張・立証活動を強いられるので,高額な着手金を依頼者に求めることに合理性はあるという意見は,根強くあります。
これに対し,別の考え方があります。医療過誤訴訟というのは請求する金額が高額に上り,規程通りに計算すれば着手金も高額となるのが必至です。一方で,訴えが裁判所で認められない場合が多い訴訟でもあります。平成25年の一般の事件の訴訟での認容率(一部勝訴を含む勝訴率)が83.6%に上るのに対して,医療訴訟の認容率は24.7%にすぎません。依頼者にとって,医療訴訟は,高額の着手金を支払ったのは良いが,裁判で負けて支払い損になったとの気持ちを残すリスクが高いものといえます。
また,医療事故の被害者になるのは一般の市民です。そのような人たちの中で,裁判を起こすためだけに何百万も問題なく支払えるというのは,一握りにすぎません。
そのような中で,高額の着手金を医療事故被害者に求めて損害賠償請求を行うことは適当かという議論は専門弁護士の中では常にあります。
当事務所の弁護士が所属する医療問題弁護団の他の専門弁護士の中には,請求する金額の多い少ないにかかわらず,着手金としては50万円+消費税だけを請求するとか,規程に照らして低額に抑えているという弁護士もいます。その分,損害賠償請求が認められた場合には,一般よりも高い率で報酬金を請求するようにしているそうです。
当事務所では,医療訴訟で,過去に先輩弁護士と担当したときに報酬規程どおりの着手金を求めたことはありました。しかし,複数の医療事件を担当し,上述のような考察を経て,現在では,着手金を低額に抑えられる場合には低額に抑えることにし,そのかわり,報酬金はやや高い率で請求することを依頼者にお願いしています。■ 専門弁護士
上述のとおり,当事務所では,医療事件の着手金を高額にいただくことには消極的ですが,それがいけないわけではありません。
高額の着手金に見合う努力を弁護士がしてくれるかが重要です。さらに依頼者にとっては高額な着手金に見合う成果が得られれば,なお良いことは言うまでもありません。
しかし,医療事件の専門弁護士でもなく,かつ医療事件を真剣に取り組むつもりもない弁護士が,先の見通しも立てないまま,高額の着手金を依頼者に請求し,十分な活動を行わないという事例も見聞します。その結果,依頼者の訴えが認められなければ,依頼者にとっては医療被害と弁護士被害の二重の被害にあったようなものです。
一般の人は弁護士になじみがなく,弁護士が医療訴訟を引き受けた以上は,適切に対応してくれると信じることでしょう。しかし,上記のような二重の被害に遭わないよう,次のようなことに気をつけ,そのような弁護士には依頼しないこと,専門性や真剣さに疑問を感じたら,他の医療事件の専門弁護士・弁護団に相談されることをお勧めします。- 「私たち専門弁護士に任せてもらえれば大丈夫」と断言する。(こんな断言は医療事件はもちろん,通常の事件でもできません。)
- 特に説明なく,あるいは,報酬規程どおりだから,医療事件は大変だから,という理由だけで多額の着手金を請求する。
- カルテ開示や証拠保全によって診療記録を保全することなしに,相手方に損害賠償を請求する内容証明を発送する。
- 調査をしないまま,損害賠償請求の通知,訴え提起をする。
- 独自に医学文献などを取り寄せて調査することをしない。
- 意見書を作成していただける医師を,患者・家族に探してくるよう求め,弁護士自身はその努力をしない。
- 意見を聞いた医師の意見だけを根拠にして,損害賠償請求が可能か否かを判断する。
- 書面を作成する際,書く内容の整理をほとんど依頼者任せにしており,弁護士は内容の吟味をしない。
- 最初の段階では事務所のボス・先輩とおぼしき人が出てきて,若手と一緒に対応する体制を敷くと言いながら,その後は若手任せで,若手もボスや先輩の意見を聞かないと判断できない。(ただし,若手任せにしていても,優秀な若手が真剣に取り組み,良い成果を導いた事例も知っています。)
また,医療事件というのは,依頼者が単にお金の支払いを求めて医療機関を訴える事件とは違います。医療機関側が説明してくれない,説明に納得がいかない,真実を明らかにするために訴訟しか方法がなかったという場合が多々あります。専門弁護士には,裁判・裁判外での損害賠償請求を通して,依頼者の疑問に応えていく責務があります。依頼した弁護士が,裁判を起こした以上は口出しするなという態度をとるようでは,依頼者の疑問が明らかにされるのかおぼつかないと考えます。依頼した弁護士の進め方に疑問がある場合は,社会人として心得ておくべき礼儀はわきまえつつ,弁護士に率直に要望や疑問を伝え,それに沿う活動をしてもらえないのか,してもらえないとしたら何故なのかを明らかにするよう努めてください。
弁護士に依頼することは,(言葉は適切でないかもしれませんが,)一般の人にとっては大きな買い物です。後で悔いが残らないようにしてください。